樹脂カバー付きクイックファスナー開発秘話
採用の裏側にあった
技術的挑戦
前編では、製品の開発経緯と採用実績をお伝えしました。
後編では、採用の裏側にあった技術的挑戦と、光洋の対応力について話を聞きました。
実は、多くの企業に採用されるまでにはいくつもの課題があります。
開発で最も苦労した点を尋ねると、櫻井は即座にこう答えました。
「いかにコンパクトにするかです」
従来、独自設計していた樹脂カバーは大きくなりがちでした。

「ファスナーの形状をどう工夫するか。樹脂カバーに収めるために、先端を跳ね上げる形に曲げる必要がありました」
その曲げ加工の技術が難しかったそうです。
試作を重ね、金型の設計を調整し、理想の形を追求していきます。 その過程には、技術部門と営業部門の密な連携がありました。
もう一つの課題は、金属と樹脂を組み合わせることでした。
「最初は、うまくはまらないこともありました」
金属と樹脂では、温度による膨張率や収縮率が異なります。精密な設計が求められたわけです。
「組み立ては手作業です。だから、リードタイムが通常の製品より長くなります」
そうした制約も、お客様に理解してもらいながら進めました。
こうした技術的な挑戦を乗り越えたからこそ、10年近く愛される製品が生まれたのです。
柔軟な対応と正直な姿勢
トイレの温水洗浄便座、洗面台、給湯器など、住宅設備の水回りを中心に採用が広がる中で、カスタマイズの要望もありました。
「サイズですね。8パイ以外に、10パイや12.7パイの問い合わせはたまにあります」
色については、意外な結果でした。
「今のクリアな色から変更の要望は、あまりないですね」
樹脂の材質や硬さの変更も可能なのでしょうか。
「材質を変えるとなると、専用の金型が必要になります」
樹脂も金属も、材質によって収縮率が変わります。同じ金型では対応できないそうです。

「ただ、実際にあるメーカーさん向けでは、ファスナーはそのまま使い、樹脂カバーだけを専用に作ったこともあります」
標準品がなくても、カスタマイズで対応する。 そこに光洋の柔軟性が表れています。
少し踏み込んだ質問をしてみました。
「どんな要望でも答えられるものなのでしょうか?」
櫻井は少し考えてから、こう答えました。

「対応できる範囲であれば、もちろん対応します。ただ、何回もやり取りすることもありますし、1回で『これいいね』と言ってもらえることもあります」
「できないことは、できないとはっきりお伝えします。無理に引き受けても、結局お客様に迷惑をかけるだけですから」
正直な対応。それが、長期的な信頼関係につながっているのだと感じました。
技術的な理由で受け入れられなかった例もあるのでしょうか。
「ありますね」と櫻井は即答します。
「一番多いのは、『外れないようにしてほしい』という要望です」
ばねの力で止めるクイックファスナーは、ネジのようにガチッと固定できません。
「極力外れにくい形状を提案します。ただ、『どうしても外れたら困る』という心配がある場合は、難しいという話になります」
その場合の代替案は?
「ネジで提案することになります。ただ、そうなるとクイックファスナーのメリットが出にくくなります」
技術的な限界を正直に伝え、最適な解決策を一緒に考える。 それが光洋のスタンスです。
ばねは「後回し」にされがち
インタビューの中で、印象的だった話があります。
「実は、開発スケジュールの中で、ばねって後回しにされることが多いんです」
どういうことでしょうか。
「製品開発では、まず周りの部品が決まっていって、最後に『これをばねで止めたい』という話が来るんです」
なぜ後回しにされるのでしょうか。
「設計者の方が、ばねのことをあまり詳しく知らないことが多いんです」
「開発の最後の最後になって『うまくいかないな』というタイミングで相談が来ます」
なるほど。それでは納期も厳しくなりそうです。
「止め方で困っている、または固定方法で困っているなど、そういうところで相談していただけると嬉しいですね」
「例えば、今ネジで止めているけれど、ばねで止められないのか、などです」
部品点数を減らせる可能性もあるのでしょうか。
「ネジだと2つ3つ必要なところが、ばねだと1つで済むこともあります」
コスト削減にもつながるわけです。
「ただ、多くの方が『ばね』と『止める』を結びつけて考えていないんです」
確かに、ばねで物を固定するという発想は一般的ではないかもしれません。
「例えば、リモコンの電池を止めるところ。あれ、板ばねなんですよ」
言われてみれば確かに。しかし、普段は意識していませんでした。

納期対応の工夫
ばねが後回しにされるということは、納期も厳しくなります。
光洋では、どう対応しているのでしょうか。
「優先順位を変えて対応しています」
「実際に、開発の最後に相談が来たことがあります。通常なら1ヶ月かかるところを2週間で対応しました」
とはいえ、理想的なのは、やはり早めの相談だそうです。
試作のスケジュールはどのくらいが目安なのでしょうか。
「提案は最短で2週間から3週間です。それで試作に進むと、さらに2週間から3週間。量産の立ち上げに1ヶ月半から2ヶ月くらいです」
「スムーズに行けばスタートから4ヶ月くらいですね」
実際は、お客様のスケジュールに合わせて進めることが多いそうです。
光洋の想い:“New Try & Quick Response for Customer”
ここまでの話を聞いて、光洋には一貫した姿勢があることに気づきました。
それは、光洋のコンセプトにも表れています。
"New Try & Quick Response for Customer"
New Try(新しい挑戦)
業界の課題を先読みして、自ら解決策を開発する。お客様から依頼される前に、「こんな製品があったらいいな」と考えて動く。
Quick Response(迅速な対応)
お客様の声に耳を傾け、柔軟かつ迅速に対応する。 納期がタイトでも、要望が難しくても、できる範囲で全力で対応する。
試作の重要性を強調し、小ロットにも対応し、早めの相談を推奨する。 それらすべてが、お客様にとって最良の結果を生むための取り組みです。
「試作を経て『どういう感じなのか』を見てもらうのがベストだと思っています」
「納品後にクレームは、ほとんどないですね。試作の段階で話を詰めていますので」
試作を重視する姿勢が、結果的に顧客満足につながっているわけです。
お客様のお役に立ちたい。
お気軽にご相談ください
インタビューの締めくくりに、相談を検討している方へのメッセージを聞きました。
「どんな段階から相談を受け付けていますか?」
「『こんなことで困っている』というレベルでも大丈夫です。まだ仕様が決まっていなくても、一緒に考えていきます」
相談から納品まで、どんな流れで進むのでしょうか。
「まず打ち合わせで、お客様の課題や要望を詳しくお聞きします。それを元に、営業と開発で検討して、『こういう形でどうですか』と提案します。そこから試作を作って、評価していただいて、改良を重ねて量産へ。その間、定期的に進捗を確認しながら進めていきます」
小ロットにも対応しているのでしょうか。
「大丈夫です。弊社は受注生産なので、お客様ごとに相談して対応しています」
コストについても、柔軟な姿勢でした。
「予算の制約があれば、どう折り合いをつけるか一緒に考えます。できる範囲のことであれば、お客様のご要望に近づけるよう努力しています」
改めて聞きました。
「納期がタイトでも、要望が難しくても、まずは相談してください。一緒に解決策を考えていきましょう」
その開発秘話を通して見えてきたのは、光洋の「提案型」の姿勢です。
業界の課題を先読みして、自ら解決策を開発する。 お客様の声に耳を傾け、柔軟に対応する。 技術的に難しい要望にも、真摯に向き合う。
それが、光洋のコンセプト「New Try & Quick Response for Customer」に込められた想いです。
そうした積み重ねが、10年近く愛される製品を生み、多くのメーカーからの信頼につながっています。