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バネブログ

異径クイックファスナー誕生秘話

「案ずるより産むが易し」

1997年、光洋では培ってきた技術を提案型営業として展開していくことに力を入れていました。
当時、ガス給湯器メーカーの部品取得の強化を目指していたこともあり、まず目を付けたのが「ワッシャを用いない形状のクイックファスナーの考案・設計」でした。

異径クイックファスナー
異径クイックファスナー

異径の配管をつなげるクイックファスナーの設計で、最初の難関は「小径側周長と大径側周長の差を吸収して同じ板幅上に収める」ことでした。当初は切り離さなければ作れないという見解が大勢を占めていましたが、水圧強度と耐久性を必要とする部品のため、切り離さない状態での曲げ成形が必要不可欠であり、設計は困難を極めました。
とはいえ、1995年から板ばねをマルチフォーミング加工で製造する事を得意としていた光洋は「案ずるより産むが易し」の精神で、まずは手作り試作から着手。試作を繰り返す中で寸法調整箇所を見つけ、まずは形にして、そこからそれに合わせて設計図に落とし込んで…と、徐々に本格的に設計に入っていくことになります。
その後、お客様の生産技術金型課(当時)の担当者に話を持ち込んだ所、興味をもっていただき、実際の開発がスタートとなりました。

耐久試験の壁

開発が進むにつれわかってきたのが、評価内容の厳しさについてでした。

「基準水圧2.0MPa、繰り返し回数100万回クリア」

現在では社内の設計開発や生産に携わる者の間では当たり前になっている、ウォーターハンマー試験および耐久試験内容ですが、その試験方法も試験装置も持っていない当時の我々には、その合格基準の高ささえわかっていませんでした。

異径クイックファスナー
異径クイックファスナーの取り付け例

ちなみに、後にわかるのですが、この数値は今までの給水・給湯継手接続金具に用いられていた基準の5倍にあたる設定で非常に高いハードルでした。なぜ、そのような基準になったかというと、重要保安部品にも該当するものを今までに無い製品を使用するため当時の品質保証責任者の方が決められたという話を聞いたことがありますが、真偽は定かではありません。ただ、これをきっかけにその後の製品などにも使われる標準の規格となりました。
また、このことを契機に光洋では、お客様のウォーターハンマー試験前に自社で見極め評価できる独自の試験機も製作、評価データを添えて提出する事が基本となりました。お客様からも事前判定できるものとして認知してもらえるまでになり、採用にあたってスピードと信頼性の向上が図れる様になりました。

閑話休題。

1回のウォーターハンマー試験に、試験機の空き状態のタイミングがうまくあっても45日間は掛かっていました。お客様の試験機は、あらゆる給水・給湯継手および配管を評価する物で、クイックファスナーを評価するためだけの物ではありませんでした。当然、新製品使用分が優先となるため空いている状況の方が珍しく、まだ製品にすらなっていない異径クイックファスナーは、合間を縫って試験評価してもらうしかありませんでした。
そんな状況の中、幾度もファスナーの耐久性を上げる設計修正をし、試作を製作、そして評価を繰り返していき、最終的に合格をもらえたのは2年が経過した後でした。

新機種の立ち上げに向けて

合格をもらえたのですぐに採用、と思っていたら次の難関が立ち塞がっていました。
「どの機種から採用するの?誰が採用の決裁を下すの?」という問題です。
ガス給湯器は自動車と似た所があり、当時は4年毎にフルモデルチェンジの新製品、2年を目処にマイナーチェンジという状況が通常でした。また大手ガス会社の器具をOEM生産しているため、部品ひとつでも変更する場合には申請が必要で、その承認をもらうためには「いくつもの申請書類」と「裏付け試験」「評価内容」といった多大な労力がかかることもわかりました。
さらには、ガス種、熱源の違い(都市ガス・LPガス・オイル)でも申請先が異なること、全国の大手ガス会社でも各々に違いがあるなど、その時点で世に出ている機種の部品を変える事は、ほぼ不可能とすら思えました。

結果、新機種の立上げ評価に載せる事が一番の得策でした。
タイミングよく始まった新機種開発に載せようと、お客様の金型課課長も協力してくれたのですが、新部品採用に前向きな設計者はなかなかいませんでした。もしも市場で事故が発生したら…そのリスクを避けるためです。しかし、その課長はあきらめず生産ラインに異径ファスナーを紹介してくれその合理性について説明をし続けてくれました。
作り手側からの意見としても、当時の同径ファスナーは、取り付ける際にワッシャを片手で押さえながら反対の手でクイックファスナーを押し込むため両手が塞がること、また先に付けてあるワッシャが給湯器内部の配管奥に落ちてしまうトラブルがあること、相手方との嵌合が悪いと取り付け時に非常に固く一日数百個取り付けていると手を痛めることがある、など現場の声を設計者に持ち上げる事となりました。
さらに、異径クイックファスナーを採用すればワッシャが不要となり、それだけで年間数千万円のコストダウンに繋がる事など提案してくれたことも大きな後押しになりました。それにより、ついに大きな壁は動き、資材購買部より具体的な見積依頼へ、そして量産取得へと繋がることになったのです。

「異径クイックファスナー」は光洋の顔となる製品へ

その後も、寸法違いの3種類、合計4アイテムが異径ファスナー方式に変更、さらに後に立ち上げる製品において使用可能な箇所はすべて異径ファスナー方式が採用されることになり、現在では採用箇所が約20倍まで拡大されました。
また、お客様からの紹介と当社からの申請も認められ、光洋のオリジナル製品として他メーカーへの販売も許可をいただけたことで、今では光洋の顔となる製品まで成長しました。
異径クイックファスナーの開発は、シーズから始まり、ニーズに合ったコト売り(提案型営業)、そして企業の成長につながるなど、まさに光洋のコンセプト「New Try & Quick Response for Customer」が結実した理想の成功体験になりました。

この経験が、後に用途に合わせた外配管にも対応した新製品としてCROWN(クラウン)・TIARA(ティアラ)、樹脂カバー付クイックジョイントファスナーの開発に繋がっていくことになりますが、それはまた別の機会に…。